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みぞを知る
神のみぞ知る




神のみぞ知る、という表現がある。英語だと「Heaven knows」。神だけが知っている→神でなければ知らない→要するに神ならぬ人の生きるこの世界においては、「誰も知らない」という意味。

この表現とのファーストコンタクトは確か文字媒体で、時期は小学生の頃だったと思う。「神のみぞ知る」という言い回しは小学生が知識としてでなく体得しているレベルの口語文法で理解できるものではなかったので、意味が分からなかった。
「ぞ」が意味不明なんだよね、「ぞ」が。
この「ぞ」は強調を表す係助詞で、(助詞の機能についてはあまり詳しくないので断言はできないけれど)強調対象の近くというよりは語呂が良い場所に入れられがちで、述語の用言を(係助詞が入らなければ終止形で終わる場合に限って)連体形に変える。古語、せいぜい文語であって、言文一致の当代においては現代語ですらない。日本語の文法を単語レベルにまで分解して品詞という概念を教わるのは中学からだし(記憶がおぼろだけど小学校でも文節レベルまでは分解するらしい)、古語の文法も中学でもちょろっと触れるけど体系的に教わるのは高校からであって、要するに小学生には「ぞ」が何なのか分かるはずがない。(私が係助詞という言葉を聞いたのは中学の三年くらいで、それがどういうものかを理解したのは高校で古典文法を習ってからだった)

「神」と「知る」しか分からない、「の」という言葉はまあ馴染み深い格助詞だし「のみ」という副助詞も知ってるし「み」という言葉もまあ幾らでも漢字変換の候補はある訳なんだけど、「ぞ」が意味不明すぎる。そんな状況だったので、小学生だった私は文脈に基づいて「神のみぞ知る」という表現の意味を推測するしかなかった。

結果、私はこの世には「みぞ」という未知の概念が存在するものと考えた。
「神のみぞ知る」という言葉の使われる文脈から察するに、そこで「神のみぞ知る」と語られている事象は、それを知ることにかなりの困難を伴ったり、そもそも知ろうとするのは馬鹿げていることであったりするようだ。「神のみぞ知る」とは、何かこう、神聖で崇高な存在である「神のみぞ」というものを「知る」、すなわちエヴァが知恵の実を齧るように冒涜的かつ開明的に「みぞ」に関する知識を得てしまう、という深遠なことなのだ!
ここでいう「みぞ」は「溝」ではない。「神の」という修飾がなされるくらいだから神様にも備わっている何かであり、神様のそれを知ることはありえない・とんでもないことだとされるくらいに秘められた感じのもの。イメージ的には竜神の「逆鱗」、人間なら普段服の下に隠れていて他人に晒されることのない脇腹とか脇の下。(なぜか「みぞ」は体表に存在する器官のような気がしていた)イントネーションは「溝」とか「隈」ではなくて「嘘」とか「箸」と同じ。

で、「じゃあ具体的にみぞってどこのことなんだろう?人間にも付いてるのかな?」とかなり間違った疑問を抱いていた。
抱きつつ、でも自分の中ではもうそれで納得してしまっていたから誰に疑問をぶつけるでもなく放置し続けて、中学校で係助詞を習っても気付かず、高校で係り結びを習った時に不意に「神のみぞ知る」の「ぞ」が係助詞であることに気付いて、見事なアハ体験(でいいのかな)をするに至った。非常に恥ずかしい。

小学生の頃の自分が脳内で展開した「みぞ」実在論、笑い話にしたいんだけれど、いかにも子供の小理屈らしく細かくて分かりにくいので話の種にもならない。ので、ブログに記事にしておく。
by navet_merci | 2009-04-17 03:36 | 言い回しとか
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